皆さんは、どのような職場で働いていますか?
統計では、看護師の就業先で1番多いのは、病院になります。2番目が診療所(クリニック)、3番目が介護施設となっています。(H26 看護職員の現状と推移より)
今回取り上げる「クリニック勤務」は、新卒で入職する看護師さんは少ないです。その代わり、「今までに病院で働いていた看護師さんが、クリニックに転職する」という流れが多くなります。
転職理由は、人にもよりますが「夜勤が辛い」「日曜祝日の休みが欲しい」「もっと負担なく働きたい」「人間関係に疲れた」などが多く見られます。
では、実際にクリニックへの転職をしたらこれらの問題は解決できるのでしょうか?
今回は、看護師が抱くクリニック勤務への理想と、実際の状況についてまとめてみました。
Contents
クリニックの特長
「病院とクリニックは違う」というのは、誰もが想像できると思います。しかし、具体的に何が違うのでしょう? 病院とクリニックの違いについて、簡単に表にまとめてみました。
病院 | クリニック(診療所) | |
定義 | 病床数20床以上 | 病床数19床以下 |
配置人員 | 施設別に医師や看護師の人員配置が決まっている(医療法資料参照) | 病床を持たない診療所(クリニック)に関する規定はない |
社会保険(健康保険・厚生年金) | 規定を満たせば加入できる | 個人開業でスタッフが5名未満の診療所には社会保障がない可能性あり |
尚、「診療所」と「クリニック」という名称に、明確な違いはありません。(以下、クリニックと総称します)
では、上記表について説明していきます。
病院とクリニックの定義
病院とクリニックは、所有する病床数で分けられています。
病床数20以上の施設を病院、19以下の施設を診療所、つまり「クリニック」と呼んでいます。
配置すべき人員数
医療施設に配置すべき人員数については、「医療法」で規定されています。
しかし、医療法には「病院施設と、有床のクリニックについてのみ」が書かれています。
つまり、無床のクリニックの人員数に関しては、決まっていないというのが実状です。
社会保険制度について
社会保険には、雇用保険、労災保険、健康保険、厚生年金保険の4つがあり、クリニックの社会保険は、「雇用保険と労災保険」、「健康保険と厚生年金」の2つずつに分けて保障の有無が変わってきます。
各種保険の内容と加入条件は、以下のようになっています。
雇用保険(失業した時に、失業給付金を受けるための保険)の条件
*1週間の労働時間が20時間以上
*31日以上継続して働くこと
労災保険(仕事中、通勤中の怪我や病気の保障)の条件
*法律で、働くすべての人に保障されています
健康保険(仕事以外の時の怪我や病気の保障 )& 厚生年金保険(老後の年金や障害年金、遺族年金)の条件
*1週間の労働時間と1ヶ月の労働日数が大体、正社員の4分の3以上あること(※正社員の労働時間が1日8時間で週に5日の時は、8時間×5日=40時間、その4分の3である30時間/週がボーダーライン)
*契約期間が2ヶ月を超えること
さらに、上の条件に当てはまらない短時間労働者でも、下記の条件に合えば加入可能です。
*1週間に20時間以上働くこと
*給与が8.8万/月(年収106万)以上あること
*契約期間が1年以上見込まれること
*学生でないこと
*厚生年金保険の被保険者が500人を超える企業で働いていること
このうち、「雇用保険・労災保険」は、クリニックの規模の大小に関わらず、加入する義務があります。
なので、クリニックで働くスタッフは、条件を満たせば加入することとなります。
しかし、「健康保険・厚生年金」は、少し違います。
個人開業のクリニックについては、常時使用するスタッフが5名未満の場合、クリニックが「健康保険・厚生年金」に加入する義務はありません。
なので、加入条件を満たす働き方をしていても、個人で健康保険や国民年金を払わないといけない状況もありうるのです。
働いてみて分かった、クリニックの実態
次に、勤務の具体的内容や人間関係について見てみましょう。
上記内容は、私がクリニックに派遣として勤務した時の実際と、クリニックに働く看護師に聞いた意見をまとめたものです。
では、ひとつひとつ見てみましょう。
休みについて
クリニックは、日祝日と暦に沿った休日、週に2日程度の午後休診など、休みが充実しているイメージです。しかし、実際にそうなのでしょうか?
クリニックによっては、午後の休診日は「外部への往診」などを行っている所があります。また、ある地域のクリニック常勤の求人50件を調べていて、休日に関する重要なことがわかりました。
同じクリニックでも、年間休日数の最も少ない所は67日(週休1日程度)、多い所で125日(週休2〜3日程度)となっており、年間休日数に2倍近い差があったのです。
ちなみに、休日数67日のクリニックの月給(手当も含む)は、約21万円。休日数125日のクリニックは、月給17万円。休日数124日で月給28万円の求人もあり、休みが給与に比例する訳ではありませんでした。
また、クリニックには、急な体調不良によるお休みが取りにくいという特徴もあります。なぜならば、スタッフの人数が少ない分、一人欠員が出ると、他のスタッフへの負担がとても大きいことがわかっているからです。
以上のことより、「クリニックだから、休みや休日が充実している」とは限らないことがわかります。
時間について
夜勤のない職場を希望されるなら、無床のクリニックがいいでしょう。
クリニックの診療時間の平均は、開始が9~10時、終了が18~19時であり、基本的に日勤帯での勤務になるからです。
このように勤務時間は決まっているのですが、実際の終了時間は患者数にかなり影響されます。
患者の来院数が多ければ、残業が日常のようにあるクリニックもあります。来院患者数の予測は困難なため、時間外勤務についての予測が難しいという特徴もあります。
時間外勤務になった時の残業代については、トラブルになっている事例も多いので、事前に確認しておくことは重要です。
無床の場合は、夜勤はありませんが、比較的遅い時間まで診療をしているクリニック(透析、美容系など)は時差勤務がある場合もあります。
これらのことから、無床のクリニックでは「夜勤がないため、体調は整いやすくなる」のですが、「残業の可能性が高くなる」ことも考えておく必要があります。
業務内容について
クリニックでは、医師が1〜2名程度と看護師で対応している所が多いです。医師は、次から次へと患者さんを診ることになるので、それ以外の業務はほぼ看護師が行うこととなります。
診療科にもよりますが、点滴や採血はもちろん、レントゲンや簡単な検査(心電図や採血・尿検査の判定など)も行うことも珍しくありません。さらに、医療行為以外にも、診療前後の院内の掃除や洗濯、受付や事務などを行う可能性もあります。
なので、幅広く、柔軟に業務に対応出来る事が必要になります。
また、「看護師の仕事の内容が整理されていることが少ない」ので、はじめは戸惑うことが多いかもしれません。
以前、派遣で伺った小児科のクリニックで、入職してまだ半年の看護師さんが「看護手順がなくて困ったから」と、自主的に作成していることもありました。
委員会や病棟会などの場がないので、業務中に起こった問題や困ったことについて、解決していく場がなく、一人一人の能力に委ねられているというのが現状のようです。
しかし、逆に考えると、「自分のやりやすい方法で仕事ができる」とも言えます。
診療の補助だけにこだわらず、柔軟に仕事ができる人や、基礎技術や知識があった上で、自分で工夫して仕事をこなしていける人には、クリニック勤務は向いていると言えます。
人間関係について
クリニックの人間関係はどのような傾向があるのでしょう?
クリニックには、必要最低限のスタッフしか配置されていません。なので、スタッフ一人一人との関わりが、病院などよりも多くなります。そのため良い関係を築けるスタッフに恵まれれば、クリニックの職場はとても働きやすい場所となるでしょう。
しかし、一度トラブルになったら、関係が密なだけに人間関係が悪化しやすいという「小さな組織ならではの大変さ」はあるかもしれません。
人間関係の良し悪しは、実際に働いてみないとわからないことも多いですが、垣間見るヒントがあります。
クリニックでは、医師の人柄や思考が、ダイレクトにクリニックの雰囲気に繋がります。なので、院長の人柄やクリニックの雰囲気を調べるのに、インターネット上によくある「クリニックの口コミ」なども参考にされるといいでしょう。
また、面接の際などに、「スタッフ間の笑顔が多い、電話の対応が良い」など、実際に自分の眼でチェックするのもおすすめです。
クリニックのお給料
では次に、大切なお給料について調べてみました。
全国的に、看護師の平均月収は296,082円(人事院職種別給与実態調査のH29年4月データの36~40歳看護師の場合より)となっています。
私が今回調べた、ある看護師専門の転職サイトでの地方都市の「クリニック日勤常勤求人」50件の平均給与は238,690円/月でした。
やはり夜勤がない分、月収も低くなっています。
ですが、実際に求人を探す際には、地域によっても平均額が変わってきます。「その地域での平均額を求人情報で調べる」「希望する地域の求人に強い転職エージェントに相談する」などの方法で情報を集めましょう。
クリニック転職で損をしないために
クリニックの求人を調べる時に、しっかりチェックしないと損をしてしまう項目があります。
それは、賞与や退職金、社会保険です。
クリニックによって、賞与や退職金が支給されるところと、支給されないところがあります。
また、社会保険(健康保険、厚生年金)については、上述したように、加入できない職場もあります。
実際に、クリニック求人について調べると、14%程度の割合で「社会保険は労災と雇用保険のみ」という職場がありました。
賞与や退職金の有無、健康保険や年金加入の有無では、年間の収入にかなりの差がでるので、見過ごすことのないようにしましょう。
まとめ
以上、「夜勤が辛い」「日曜祝日の休みが欲しい」「もっと負担なく働きたい」「人間関係に疲れた」という理由で、クリニックに転職を考えている方に向けて、私の持つ情報をまとめてみました。
今回の内容から、「クリニックへの転職が、問題の解決に繋がるようにするには、そのための条件が整っているクリニックを選ばないといけない」ということが明確になったと思います。
しかし、一つ一つの条件が整っているのかを、自分で確認していくには限界があります。そんな時に、頼りになるのが看護師のお仕事紹介エージェントです。
看護師のお仕事紹介エージェントの場合、自分だけでは調べきれない条件や、見逃しがちな条件も、転職のプロがきめ細やかに対応してくれます。
そのため、看護師のお仕事紹介エージェントを活用することで、間違った選択をせず、問題解決に繋がる近道となるでしょう。