看護師の正社員が、給与から自動的に支払っている社会保険料について、その種類や補償内容を把握できていますか?
このように言っている私も、看護師の正社員退職時に、社会保険についてはほとんど知識がないままでした。
その後も、正社員として働いていない約2年間、「毎月の社会保険料高いな」と思いながら過ごしていましたが、詳しく調べようとはしませんでした。
しかし、このサイトを立ち上げる時に、社会保険について調べ、「もしかしたら、この2年間、大きな損をしていたのかもしれない!」ということに気がつきました。
なので、同じように看護師を退職しようとしている方が「損なく、社会保険の切り替えが出来る」ように、私の体験談も含めお話ししていきます。
その前に、社会保険の基本について知りたい方は、こちらの記事から読んでいただくのがオススメです。
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正社員を退職したのちの社会保険
社会保険の切り替えは「正社員を退職したのち、どのような労働状況になるのか」によって手続きが変わってきます。
もしも、正社員で転職するための退職であるならば、社会保険の手続きは、転職先の雇用側が代行してくれるので、自分は何もしなくても問題ありません。
しかし退職後、「しばらく何もしない」、「看護師として不定期に派遣やバイトで働く」などの場合は、違います。
なぜならば、これに該当する人は、自分の保険の移行手続きを自分で行う必要があるからです。
もしも、知らずに過ごしてしまうと、「払うべき保険料が知らない間に未納になっている」、「手続きすれば減額や免除になる分を払っている」という状況になったりします。
では、退職後の雇用保険、健康保険、年金について1つづつ見ていきましょう。
退職後の雇用保険
雇用保険とは、会社に雇用されていた場合は、ほぼ全員が給与から天引きされていたものです。
この保険料を支払っていたことで保障される代表的な制度が、退職後の失業給付金(=失業手当)です。
失業給付金には、支給条件や、支給前の手続き、場合によっては待機期間などがあります。
では、給付を受けるための大まかな流れを見てみましょう。
失業給付を受ける流れ
退職後、働かない期間がある場合は、一定の条件を満たせば、今までに加入していた雇用保険によって失業給付金が受給されます。
失業給付金を受けとるには、受給資格をクリアする必要があります。
また、受給まで時間がかかる場合があるので、退職後はハローワークで早期に手続きをする必要があります。
受給条件
・雇用保険に加入していた期間:退職日より前の2年間に、雇用保険に加入していた期間が合計で1年以上あること
・失業状態(=働ける能力があって、働く意欲があるのに就職できない状態)であること。働く意欲を証明するため、4週間に1回はハローワークに行き、求人情報の閲覧などを行う必要あり
⑴ 退職後、手続きに必要なものを揃えます。
<必要書類・物品>
・離職票
・マイナンバーカード
・上半身の写真2枚(縦3.0×横2.5cm)
・印鑑
・通帳(給付金の入金手続きのため)
⑵受給手続きをする本人が、必要書類を持って、お住まいの地域のハローワークに手続きに行きます。
受給資格の審査と、求職の申し込みを行い、次にハローワークを訪れる”雇用保険受給説明会”の日程と、”最初の失業認定日”が伝えられます。
※この最初の手続き日から7日間は、失業状態を証明する期間として、どんな働き方でも働くことはできません。(=待機期間)
⑶指定された”雇用保険受給説明会”の日に、給付金や求職活動についての説明を聞きます。
⑷失業認定日に、申告書を提出し、給付金支給が開始されます。
7日間の待機期間満了後、失業給付金の支給期間に入っています。決められた失業認定日に”失業認定申告書”を提出すると、問題がなければ数日後(1週間以内)に、最初の認定日までの期間の給付金が、口座に振り込まれます。
※ただし、退職時の理由が「自己都合退職」の場合は、7日間の待機期間終了後、さらに3ヶ月の給付制限期間となり、その後に給付金支給となります。
退職後、バイトや派遣などをすることは可能?
「退職後、バイトなどで少しでも働くと失業給付金は受けられない」と思ってはいませんか?
これは、私が実際に勘違いしていたことです。
しかし、バイト先での働き方が、”雇用保険加入の条件”を満たさない範囲ならば、バイトをしながら失業給付金を受給できる場合があります。(細かい規定については、各自治体のハローワークによって異なります)
しかし、”雇用保険の加入条件”を満たす働き方をすると、バイト先の雇用保険に加入となり、失業給付金は受給できず、さらに保険料を納める義務が発生します。
(※雇用保険加入の条件は「20時間/週以上の勤務」「31日以上の雇用期間」などです。明細はこちらの記事へ)
雇用保険の失業給付金をもらいながら、バイトをしたいと考えている人は、退職したらすぐにハローワークへ受給申請手続きに行き、「失業給付金を受けながらできるバイトの範囲」についても聞いておくといいでしょう。
退職後の健康保険
正社員として病院や企業に勤めていた時に入っていた健康保険は、基本的には退職とともに権利を失い、保険証を返却しなければいけません。
では、その後の健康保険はどうなるのでしょうか?
退職後の健康保険の選択肢として、3つの方法があります。
1. 任意継続
2. 国民健康保険に切り替える
3. 家族の扶養に入ること
では、1つづつどのような仕組みになっているのか見ていきましょう。
1. それまでの健康保険を任意継続
任意継続とは、病院や企業を退職して、雇用先の健康保険の被保険者資格を喪失した時でも、個人の希望で同じ保険に継続加入できる制度です。
国民健康保険よりすぐれているのは、「傷病手当」「出産手当」「家族の扶養」があることです。
・任意継続の特徴
任意継続の最長継続期間は2年間です。
保険料は退職時の標準報酬月額(上限28万円)に基づいて決定され、原則2年は変わりません。
しかし、雇用されている間は「保険料の半額を雇用主が払っていた分、退職後は全額自己負担」となるため、保険料は給与天引きされていた額の約2倍の金額となります。
以下は、私が任意継続を受けた時の通知書です。
また、任意継続を受けるための規定は厳しくなっており
・退職日から20日以内に手続きが必要
・保険料納付期限の毎月10日に1日でも遅れた場合は、資格の喪失
などがあります。
この規定を破ると、即日資格喪失となります。
2. 国民健康保険
国民健康保険は、無職、個人事業主など、その他の保険制度に属さない人のために各市町村役場が運営する保険制度です。
保険料は、世帯単位で加入者の前年(1/1~12/31)の年収などによって決まります。
各市町村ごとに料率が決まっているので、たとえ全く同じ条件の人でも、市町村が違えば、保険料は変わっていきます。
また、国民健康保険には「扶養」の概念はありません。
会社を退職後に国民健康保険の手続きをするには、14日以内に各区役所に行く必要があります。
3. 家族の健康保険の扶養に入る
扶養とは、家族に養ってもらうということで、養われる側(被扶養者)になるということです。
以下の条件を満たしていれば、家族が加入している保険の扶養に入ることができ、保険料は0円になります。
・年収が原則として130万円未満(60歳以上は180万円未満)であること、かつ被保険者の年収の2分の1未満であること
・3親等内の親族(うち配偶者、兄弟姉妹および直系血族以外は同居が必要)であること
条件である「130万円未満の年収」、「同居・別居」については少しわかりづらいので簡単に説明します。
退職前の給与が既に130万を超える場合
条件である130万円は、「退職日」以降の収入見込みになります。なので、それまでに得た収入がいくらあっても大丈夫です。
退職後の収入としての130万円を超えてしまうと、扶養には入れません。
看護師の正社員で働いていた方が失業保険をもらう場合は、失業保険料の収入だけで130万円のラインを超える可能性が大きいので、扶養に入れない可能性が高くなります。
一人暮らしで家族と別居している場合
別居をしていても、「配偶者」、「子、兄弟・姉妹」、「父母などの直系血族」であれば扶養に入ることができます。
ただし、別居をしている家族の扶養に入るときには「生活費の負担を受けている」などの証明が必要となります。
詳しくは、家族が加入している健康保険組合に認定基準を確認してみる必要があります。
結果、退職後の健康保険としてお得なのは?
あなたの状況が、家族の扶養に入れる状況であれば、健康保険料は無料となるので、健康保険料の負担はなくなります。
しかし、元々看護師の正社員で働いていた場合、先に述べたように”看護師の給与から計算される失業保険給付金”を考えると、「扶養に入らず失業給付金をもらいながら、健康保険任意継続または国民健康保険に加入して、保険料を払う」という方がお得だと推測されます。
例えば、30〜40歳、勤続1年以上〜10年未満、月収25万円の看護師さんが、退職して健康保険任意継続を選んだ場合の月収入予想額
失業保険料日額 ¥5,331/日
月額 ¥149,293/月
(失業給付金日額の計算方法は、離職前の6ヶ月間の賃金の合計を180で割った金額の50〜80%となっています)
健康保険任意継続の場合予想保険額 最大でも約¥28,000円
(40歳以上は介護保険料が加算されます)
よって、健康保険料を払っても10万円以上は残ることになります。
⚠ただし、失業給付金の支給は「自己都合退職の場合は3ヶ月の待機期間がある」ので、「失業給付金が支給されるまでの間、扶養に入る」ことも可能です。(詳しくは、扶養者が就労する会社に問い合わせてみましょう)
よって、「今まで看護師の正社員として働いていた看護師さんが、家族の健康保険の扶養に入るのはお得ではない」といえます。
では、残りの任意継続と国民健康保険ではどちらがいいのでしょうか。
わかりやすいように、上記と似た条件「福岡県在住 35歳 独身 月収手取り25万、年収約400万の看護師」の場合で、大まかに計算してみました。
<健康保険料比較>
任意継続(全国健康保険協会の場合)の場合:約¥26,598円
国民健康保険の場合 約¥26,884円
(国民健康保険料については、在住している市区町村によって税率が違ってきます。ご自分の保険料の明細は、お住いの市区町村にお問い合わせください)
この場合、保険料に大きな差は出ませんでした。
しかし、
・健康保険任意継続には、傷病手当や、扶養手当、出産手当があること
・退職時の標準報酬月額が28万を超えていた人には、28万円が上限として保険料が算出されること
の理由から、保証が手厚い方がいい人、退職時の標準報酬月額が28万を超えていた人には、任意継続がおすすめであるといえます。
しかしここで、気をつけたいのが、失業状態またはバイト生活の状態で、2年目をむかえる場合です。
先に述べたように、任意継続保険は原則2年間保険料が変わりません。なのですが、国民健康保険料は、「前年の年収」によって年ごとに保険料が変わります。
退職後1年間、看護師として働いていた時よりも収入が下がっている場合、退職後2年目の健康保険料は、国民健康保険の方が安くなる可能性が大きくなります。
以上のような結果から、私がおすすめする健康保険の加入方法としては、以下のようになります。
退職後1年目:健康保険任意継続とする
退職後2年目:市区町村役場で国民健康保険料を算出してもらい、2年目の保険を決定する
なお、健康保険任意継続は、いつでも誰でも加入できるわけではありませんが、一端加入すれば、いつでも辞めることができます。
逆に、国民健康保険は、いつでも加入することができます。
ですので、退職時にはとりあえず「任意継続」の手続きをしておき、国民健康保険の方が自分に向いていると分かったら、その時点で切り替えることも可能です。
退職後の年金
最後に、年金について見てみましょう。
日本に住所がある人ならば誰もが加入を義務付けられている年金には、種類が3つあります。
それは、国民年金、厚生年金と共済年金です。
国民年金は、20歳以上60歳未満のすべての人が加入するもので、基礎年金と呼ばれています。
厚生年金や共済年金は、雇用されている方が対象になっており、自動的に国民年金にも加入・支払いをしています。
国民年金被保険者の区分
第1号被保険者:国民年金のみ加入している方(自営業、フリーランス、学生、無職など)
第2号被保険者:国民年金に加えて厚生年金や共済組合に加入している方(公務員や、会社に雇用されている)
第3号被保険者:第2号被保険者に扶養される方(年収130万未満の配偶者)
看護師として働いていながら、給与から年金を引かれている場合は、国民年金の被保険者区分「第2号被保険者」となっています。
しかし、病院や会社を退職した後、どこにも勤めずに厚生年金や共済年金などに加入することがない場合は、自分で国民年金の手続きをして第1号被保険者または第3号被保険者に変更する必要があります。
第3号被保険者(扶養)の場合、保険料は無料なのですが、条件があります。
・扶養に入れるのは「配偶者」のみ
・年収が原則として130万円未満(60歳以上は180万円未満)であること、かつ被保険者の年収の2分の1未満であること(健康保険の条件と同じ)
配偶者がいても、失業保険の給付金を希望する場合は「国民年金第1号被保険者」になります。
第1号被保険者になった場合、定職に就くまでは、年金を納めることが負担となることもあります。
その場合は、「国民年金保険料免除・納付猶予制度」などの方法もあります。
私も、看護師の正社員を退職後、すぐに国民年金切り替えの手続きをしました。
その時は、未婚だったので、第1号被保険者となりました。
給与がない期間の年金は、負担が大きかったのですが、失業状態であることが認められると、その年の国民年金は全額免除していただけたのでとても助かりました。(世帯状況、収入の目安によって免除額は変わってきます。詳しくはこちら)
ちなみに、国民年金免除の手続きなしで「年金納付を滞納」すると、その期間の年金受給額は0になります。しかし、免除手続きをしていると、未納とは判断されず、予定年金総額の1/2は受給されます。
国民年金手続きは、退職後14日以内に「市区町村役所・役場の国民年金窓口」で行いましょう。
まとめ
以上、看護師が退職するときに必要な社会保険について、どのような方法がお得なのかをまとめてみました。
社会保険の手続きは、わからないことが多く後回しにしがちなのですが「辞める前に知識をつけておかないと大きな損」になります。
賢く、しっかりと節約して、退職後の生活を充実したものにしましょう!