H26年の厚生省の調査で、看護師が就業する職場として、最も多い施設は病院、2番目に多い施設は診療所、3番目に多い施設は介護施設等となっています(看護職員の現状と推移より)。
高齢化社会に伴って、介護施設の数は増えており、今後も看護師の職場として介護施設の割合は増えることが予想されます。
このような介護施設に該当する看護師の職場として、「有料老人ホーム」があります。有料老人ホームは、病院とは違って「ゆとりのある職場」「楽に働ける」というイメージがあり、忙しいのが苦手な看護師さんに人気があります。しかし、一部では「看護師のスキルが落ちるのでは?」「お給料が安そう」 と敬遠される職場でもあります。
今回は、過去に有料老人ホームで勤務した経験をもとに、「看護師が老人ホームに抱くイメージと、その実際」についてまとめてみました。
Contents
有料老人ホームの特徴
有料老人ホームとは、具体的にどのような施設のことをいうのでしょうか。
「有料老人ホームの定義」について見てみましょう。
有料老人ホームの定義
有料老人ホームとは
①老人を入居させていること
②該当老人に対して「入浴、排泄または食事の介護」「食事の提供」「洗濯、掃除等の家事」または「健康管理」
の少なくとも1つのサービスを提供する施設のこと
(老人福祉法(昭和38年法律第133号)第29条第1項より)
平成18年に改正老人福祉法が施行された時に、それまでの「10人以上の老人が、常時入所していること」の規定がなくなったため、例え1人であっても上記条件を満たせば有料老人ホームとしての取り扱いとなります。
また、有料老人ホームは、「介護付き有料老人ホーム」「住宅型有料老人ホーム」「健康型有料老人ホーム」の3種類に分けられます。
「介護付き有料老人ホーム」:介護保険制度に基づく「特定施設」の指定を受け、事業者自身が介護サービスも提供する施設のことです。
「住宅型有料老人ホーム」:外部の介護サービス事業者による訪問介護などを利用する施設のことです。
「健康型有料老人ホーム」:自立した高齢者を対象としており、介護が必要になった時には退所しなければいけない施設のことです。近年では減少傾向にあります。
また、有料老人ホームの人員配置として介護サービスがつかない施設は「管理者、生活相談員、栄養士、調理員」が必要とされ、介護サービスが付く施設は上記に加えて「介護・看護職員、機能訓練指導員」が必要とされています。(有料老人ホームの設置運営標準指導指針についてより)
看護師の配置基準
有料老人ホームの看護師の配置に関して、「住宅型有料老人ホーム」では、人員配置に関する基準はありません。理由は、比較的健康な高齢者を対象にしているためです。
しかし、「介護付き有料老人ホーム」については、「介護保険法」に基づき職員配置に関しての最低基準が設定されています。
それによると、「要支援の利用者:看護職または介護職員の数=10:1」「要介護の利用者:看護職員または介護職員の数=3:1」以上、ただし「看護職員は要介護者等が30人までは1人、30人を超える場合は、50人ごとに1人」とされています。
また、介護付き有料老人ホームに関しては「基準以上の職員配置をして、質の高いサービスを提供した場合」に加算請求できる報酬があります。さらに、たくさんの有料老人ホームの中での差別化として「看護師24時間在中」を売りとする施設もあるため、有料老人ホームにおける看護師の需要は高いのです。
病院と有料老人ホームの違い
では、病院と有料老人ホームの違いは何でしょう。
病院とはどのような場所かというと、以下のような説明になります。
病院とは
「医療法において医療を行うための場所で、かつ20床以上の病床を有すること」
とされており、病院の人員配置は、医師、薬剤師、看護師(准看護師)、看護補助者、栄養士において規定があります(医療法に基づく人員配置標準について参照)
よって、病院と有料老人ホームの違いは以下のようになります。
病院とは、「医療を行う場」で、そのための医療従事者が配置されている場所のことです。一方、老人ホームとは「高齢者の生活の場」で、高齢者が快適な生活を行うための人員が配置されている場所のことを言います。
有料老人ホームでの看護師の役割と医療行為
看護師の役割
上記に述べたように、有料老人ホームは「高齢者の生活の場」です。そこでの看護師の役割は、「健康管理」が主になります。
また、入居者の病状の急変に備えて「医療機関との連携」が規定されている有料老人ホームでは、看護師は嘱託医療機関とのやりとりや、緊急時の対応を行います。
その他にも、入居者の希望に応じた健康診断が受けられるように支援を行ったり、健康維持のために必要な措置を行ったり、「治療が必要と判断する場合」は、適切な医療機関への連絡や受信手続きを行ったりするのも看護師の役割となります。
看護師ができる医療行為
では、有料老人ホームでの看護師が行える医療行為はどのようになっているのでしょう。
有料老人ホームにおける看護師の医療行為については、「医師の指示のもと」という条件で一定の行為を行うことができます。
「生活の場である老人ホーム」で暮らす高齢者に行う医療行為なので、「在宅で可能な医療行為」として、以下のような行為になります。
・胃瘻処置
・膀胱留置カテーテル管理
・在宅酸素
・人工肛門処置
・褥瘡処置
・インシュリン注射
・経管栄養
・痰の吸引
・点滴
などです。しかし、対応する内容は施設によって様々で、「看護師が24時間在中かどうか」などによっても変わってきます。
働いてみて分かった、老人ホームの実態
以上のように、有料老人ホームとは「生活の場」であるため、看護師にとって「ゆったりと、穏やかに働くことができるが、看護師のスキルは落ちる」というイメージとなっていることがわかります。
それでは、実際に働いてみるとどうなのでしょう? 看護師として半年、有料老人ホームで働いてみて感じたことを次にまとめました。
業務内容
私は、有料老人ホームで日勤看護師として働いていました。その業務は、「毎日のルーチン業務」と、「週毎や月毎などの定期的な業務」そして「突発的な業務」に分かれます。
<毎日のルーチン業務>
・バイタルサイン測定
・処置(褥瘡、胃瘻、排泄など)と吸引
・経管栄養の方のマウスケア
・内服管理
・食事介助
・記録(看護計画はなく、経時記録のようなもの)
<定期的な業務>
・嘱託医の往診(週に1〜2回)
・内服薬の分別(2週に1回)
・定期受診のある入居者さんの受診手配と準備
・家族とのコミュニケーション
<突発的な業務>
・入居者さんの急な発熱、体調不良時の嘱託医との連絡、指示受け、処置
・入居者さんの急な受信時の病院予約、送迎手配、家族・嘱託医連絡、付き添い
上記の内容からわかるように、介護付き有料老人ホームの看護師の仕事は、「健康管理」「簡単な処置」「医療機関や外部との連携」がメインとなります。
老人ホームで働くメリット・デメリット
上記に、老人ホームで働くことのメリット・デメリットを表にしてみました。
結果、老人ホームで働くイメージについて、以下のようなことがいえます。
看護師のイメージとその実際
仕事内容とスキル
時間がゆっくりと流れる老人ホームは、多くの看護師がイメージするように「ゆとりを持って働くことができる職場」というのは事実です。身体的にも、介護士さんが多いので、体力的な仕事(オムツ交換、入浴介助)は介護士さんの役割となります。「腰を悪くしている」「体力に自信がない」などの看護師さんには体の負担も少ない職場でもあります。
また普段は、残業も少なく「ワークライフバランスを重視したい」という看護師さんにとっては働きやすいでしょう。
ただし、何か突発的な事態が発生した時は「自分で判断して必要場所に連絡し、必要な処置を行う」ということが必要となります。このような時、看護師1人に掛かる負担は一気に大きくなり、判断力を必要とされます。
「看護師としてのキャリア」や「技術的なスキルの向上」は少ないかもしれませんが、「判断力」や「対象の全体像から看護する力」は養える環境にあるといえます。
また、「医療機関や外部との連携」業務は幅広く、嘱託医・歯科・リハビリ・かかりつけ医・薬局・医療物品業者などの医療関係との連携から、ケアマネ、家族との連携まで必要となります。老人ホームではコミュニケーション能力の高さがあれば特でしょう。
老人ホームのお給料
老人ホームの給与は、病院に比べると低いイメージがあります。
実際に、病院では基本給にプラスして色々な手当がつくのですが、老人ホームではその手当がないために給与が低くなる傾向にあるのは事実です。
実際に私が老人ホームで頂いていた給与は、年収で300万円(H25年当時、日勤のみ、遅出なし契約)でした。H26年、福岡での正看護師の夜勤込み平均年収が453万円(賃金構造基本統計調査 都道府県別第2表より)なので、年間の夜勤手当約67.6万円(看護協会資料2011年の夜勤手当平均額を基準に、5回/月夜勤をしたと仮定した予想額)を差し引いて考えても約85.4万低いことになります。
以上のことから、「給与」よりも「業務内容のゆとり」や「ワークライフバランス」を優先したい人に向いている職場だと言えます。
私がイメージしていなかった事実:「休み」
「ゆったりと働けて、高齢者とのコミュニケーションやレクレーションも楽しめる老人ホーム」での仕事は、残業が少なくプライベートが充実しやすいことは既に述べました。しかし、休日に関しては注意が必要です。
私は、勉強したいことがあり、残業の少ない、プライベートを優先する働き方ができる老人ホームへ就職をしました。しかし、休日に関して意識しておらず、1週間程度の夏休みをもらう時に同僚に大きな負担をかけてしまいました。
看護師の人数がもともと少ない「老人ホーム」では、看護師が1人休むと、その負担が残りの看護師に直接かかります。少ない看護師の職場ほど、協力し合う姿勢が必要となることを頭に置いておき、連休などの希望があるときは早くから打診しておくといいでしょう。
私がイメージしていなかった事実:「介護士との関係性」
介護施設などで看護師が働く時に、頻繁に問題になるのが「介護士との関係性」です。
お互いに主張しあって、お互いが働きにくくなった。などの話もよく聞きます。私も働くまでは心配していたのですが、結果「良い方向への裏切り」となりました。
介護士さんには、年配のベテランの方もいるのですが、若い介護士さんの割合も増えています。一概には言えませんが、若い人が職場に多いと、職場は明るく、活気に溢れます。幸運にも、私が就職した先の介護士さん達は、20〜30代半ばの方が多く、明るく楽しい職場でした。
介護施設の現場が初めてだった私も、とても多くのことを介護士さんに教えてもらいました。
「看護師だから」とか、「介護士だから」という枠にとらわれず、同じ職場のスタッフとして働きやすい環境を作ることはお互いの心がけ次第だと感じました。
老人ホームの看護師に向いている人は
以上のことから、老人ホームでのお仕事に向いているのは以下のような人になります。
・高齢者看護が好きな人
・ゆったりと時間位に余裕を持って働きたい人
・コミュニケーションをとることが好きな人
・体力的・身体的な不安がある人
・看護師としてのスキルや専門性にこだわらず、「生活の場を支えるスタッフの1員」として他業種との協力ができる人
・判断力と決断力がある人
・給与よりも、ゆとりやワークライフバランスを求める人
まとめ
老人ホームでのお仕事は、病院などの「医療の現場」と比較すると、物足りなさを感じるかもしれません。
しかし「1人の高齢者の背景や家族構成、健康状態から趣味嗜好まで、全体的な要素から必要な看護に繋げる」ということや、「時間をかけて、自分のケアの展開や評価まで出来る」などの病院では難しい看護の基本に触れることが出来る場所です。また、時間的な余裕から、プライベートを優先したい時にもオススメです。
今後も看護師が働く職場として、大きな割合を占めることが予想される老人ホームで、ライフスタイルに合った働き方をしてみる選択をしてみてもいいのではないでしょうか。