転職や退職を考える看護師さんの中には、次の就職先はじっくりと選びたいから、しばらく就職せずにいる。という考えの方も多くいます。
その場合、失業保険はとても頼りになる制度です。
しかし、今まで看護師として働いてきている方で、失業保険についてちゃんと知っている人は少ないのではないでしょうか。
実際に私も、看護師の常勤を退職した後に失業保険を受給するため、手続きはしたのですが、失業保険の仕組みを知らず、結局一銭も受け取らずに次の仕事を開始しました。
でも、失業保険の仕組みを知っていれば、お得に受け取れたことを後で知り、とても残念に思いました。
今回は、失業保険の受給を考えている看護師さんが、私のように損をせず、賢く、お得に失業保険の受給ができ、失業期間のお金の不安が少しでも軽くなるように、失業保険について知っておくべき情報をお伝えします。
Contents
雇用保険基本手当(失業保険)の基本
みなさんがよく使っている”失業保険”という言葉の正式な名称は、雇用保険の「基本手当」と言います。
(以後こちらの章では、基本手当と呼びます。)
この基本手当は、失業した人が安定した生活を送りつつ、1日も早く就職できるように給付される給付金のことをいい、受給するには一定の条件を満たす必要があります。
基本手当の受給条件
以下が、その条件です。
・離職前2年間の間に、雇用保険の被保険者であった期間が12ヶ月以上あること。(ただし、倒産や解雇による離職の場合は、離職前1年の間に6ヶ月以上の被保険者期間があること)
※法律で、労働者は全て雇用保険に加入するようになっているので、看護師として働いている期間=雇用保険被保険者の期間と考えても良いでしょう。雇用保険の被保険者であるかを確かめたければ、給与明細で雇用保険料を払っているかで見ることができます。(もしも、支払われていないときは、雇用主に確認しましょう。)
・積極的に就職しようとする意思があること。
・いつでも就職できる能力があること。(妊娠、出産、育児、病気、怪我などで健康状態や環境的に就業できない状態ではないこと)
・積極的に仕事を探しているにもかかわらず、現在職業についてないこと。
基本手当受給の申請に必要なもの
基本手当の受給手続きには、以下のものが必要となります。
・離職票1

ハローワークインターネットサービスより抜粋
・離職票2

ハローワークインターネットサービスより抜粋
(離職票1,2は退職の翌々日〜10日以内に退職した職場から届きます。失業保険の手続きを早めに行いたい場合は、その旨を就業先の事務に伝えておくと確実でしょう。)
・個人ナンバー(マイナンバー)カード
・身分証明書(運転免許証など写真付きで氏名、生年月日、住所などの記載がある官公署発行の証明書)
・認印
・写真2枚(正面の上半身、縦3,0×横2,5cm、最近のもの)
・本人名義の通帳(給付金の振込のため)
また、職業安定所に届出た曜日が、以降の失業認定の度に職業安定所を訪れる曜日となります。ハローワークに通いやすい曜日に行くことをお勧めします。
基本手当の金額
雇用保険の基本手当は、その人の離職前6ヶ月間の給与から計算される「基本手当日額」が基準となります。
基本手当日額=(退職前6ヶ月間の給与総額➗180日)× 給付率(50〜80%)
ここでの「退職前6ヶ月の給与」は、手取りではなく総支給額となります。
残業手当、通勤手当、夜勤手当、祝日手当などを含み、社会保険などの諸費用を控除される前の給与となります。(ただし、賞与は含まれません)
給付率である50〜80%は、離職時の年齢、それまでもらっていた給与などで決まります。給付率の計算については、ややこしい計算になるので、ハローワークに問い合わせるのがもっとも簡単な方法でしょう。

厚生労働省「雇用保険の基本手当を受給される皆様」より
また、基本手当日額には上限・下限があります。毎年更新されているために、詳しくは厚生労働省の雇用保険基本手当日額でチェックされることをお勧めします。
実際に口座に振り込まれる金額は、失業認定が4週間(28日)おきに行われるため、基本手当日額×28日分となります。
例えば、控除前の総支給額が35万/月だった28歳看護師の基本手当日額を、計算してみましょう。(普及率は、1番低い場合の50%で計算しています。大体の目安としてください。)
{(¥350,000 ✖️ 6ヶ月)➗ 180 日}✖️ 50% =¥5,833.3333…
よって、基本手当日額=¥5,833となります。
そのため、失業認定の時に入金される金額は、以下のようになります。
¥5,833 ✖️ 28日 = ¥163,324
基本手当受給の流れ
離職後、基本手当の受給を受けるためには、住居管轄のハローワークに必要書類などを持って、手続きに行く必要があります。
そこで基本手当を受給できるかの判定が行われ、同時に求職の申し込みを行います。
最初の手続きに行った日から、7日間の「待機期間」と呼ばれる期間があり、この期間に仕事を行わないことで、本当に失業状態にあることが証明されます。
よって、この期間は、たとえバイトであっても仕事をすることはできません。
待機期間満了の頃に、雇用保険の説明会が行われます。
ここでは、基本手当の受給について、求職活動についての詳しい説明が行われます。
その後は、28日周期で、失業の認定を受ける必要があります。
基本は、申し込みの日から28日経過した翌日が初回認定日となりますが、日祝日などによって変更になる場合もあります。
明確な日程は、ハローワークから指定があるので、忘れないようにしましょう。
退職理由が会社都合の場合
退職の理由が、会社都合の場合とは、自分の意志に反して退職を余儀なくされた場合です。例えば、リストラや経営破綻などのことを言います。
この場合は、初回の認定で問題なければ、認定日から約1週間で給付金の振込があります。
よって、会社都合の退職の場合、退職後にスムーズに手続きをすれば、約1ヶ月で初めての給付金が受け取れると考えましょう。
また、最初の給付金は、待機期間終了〜初回認定日の前日までの日数分(28日−7日=21日)なので、基本手当日額✖️21日分となります。
28日分の支給(満額の支給)は、2回目からとなります。
退職理由が自己都合の場合
退職理由が自己都合とは、自分の意志で退職をする場合です。転居や結婚、転職などはこれにあたります。
この場合は、給付金受給までに3ヶ月の給付制限期間があります。
少しわかりにくいので、以下に図にしてみました。
上の表で言えば、会社都合で退職した場合、3/1に初めてハローワークに行ったとし、問題なく手続きが進んだとすれば、3/29日に初回認定を受け、その約1週間後の4月初旬に基本手当の入金があります。
しかし、自己都合で「3ヶ月給付制限」があると、初回認定日から給付制限期間に入り、実際に基本手当の入金は、6/20に2回目の認定を受け、そこから約1週間後の6月下旬となるのです。
よって、実際に給付金を受け取れるのは、申し込みから約4ヶ月後となります。
また、失業の認定を受け、給付金をもらうには、認定日までの間に、決まった回数以上の求職活動を行う必要があります。
求職活動は、会社都合の退職の場合は、初回認定までに1回以上(雇用保険説明会への参加が、1回の求職活動に見なされる)。
自己都合退職で3ヶ月の給付制限期間がある場合は、給付制限が開けるまでに3回以上(そのうち1回は雇用保険説明会でOK)、以降は次の認定日までに2回以上の求職活動が必要です。
基本手当の受給期間
先に述べたように、基本手当の給付開始日程は、退職理由が大きく関わってきます。
退職の理由が会社都合の場合は、申し込み後約1ヶ月、自己都合の場合は申し込み後約4ヶ月で受給されます。
そして、受給期間については、以下の条件によって決まってきます。
・離職の理由
・雇用保険の加入期間
・離職時の年齢
・就職困難者(身体障害者、知的障害者、社会的事情によって就職が困難なもの)かどうか
これらの条件から、基本手当の受給期間が最低90日間〜最長360日間で決められます。
また、基本手当受給には、「失業した日から1年間」という有効期限があります。
失業した日の翌日から1年間という有効期限を過ぎると、手当を受けられなくなるので注意しましょう。
基本手当受給とバイト
ところで皆さんは、「失業の認定を受けて、基本手当をもらうからには、バイトなどはできない」と思ってないでしょうか?
これは、過去に私がしていた勘違いです。
自己都合で退職した場合、上に説明したように、基本手当の受給までに4ヶ月も待つ必要があります。その間、全く収入がないのはとても不安なことです。
ですが実際は、失業の認定を受けながらもバイトをすることは可能なのです。
しかし、ちゃんとルールを守ってバイトをしないと、せっかくの基本手当が減額されたり、貰えなくなったりします。
では、どのようなルールがあるのかみてみましょう。
基本手当をしっかり受給しながらバイトするためのルール
バイト可能な期間を知っておく
上の「基本手当受給の流れ」で説明したように、雇用保険基本手当をもらうには、退職後にハローワークに行き、受給資格の認定と求職の申し込みをします。
その後、7日間の待機期間があります。
この期間は、失業状態を判定する期間なので、どのような形であっても働くことはできません。
では、バイトができるのはいつでしょうか?
以下が、その期間になります。
①退職後にハローワークに手続きに行く前
②自己都合退職の場合の3ヶ月給付制限期間中(ただし就職したとみなされない範囲内)
③基本手当の給付期間中(ただし、受給する基本手当の金額に影響あり)
失業中の各期間での働き方を知っておく
上記に挙げた
②3ヶ月の給付制限期間中
③基本手当受給期間中
は、バイトも可能ですが、その働き方によって、受給額が減額になったり、場合によっては打ち切られてしまうこともあります。
3ヶ月の給付制限中の働き方
給付制限中に、就職したと判断される働き方をしてしまうと、基本手当をもらえなくなります。
就職したと判断される働き方とは、雇用保険の加入条件を満たす働き方のことで、「1週間の所定労働時間が20時間以上」かつ「31日以上の雇用が見込まれる」ような働き方を言います。
※ただし、この基準は各ハローワークに委ねられているので、必ず管轄のハローワークに事前に確かめましょう!
基本手当受給中の働き方
給付中の働き方は、主に2つのパターンがあります。
1つ目は、1日に4時間以上の労働をした時の「就職または就労」。2つ目は、1日4時間未満の「内職または手伝い」です。
「就職または就労」をした場合は、その日の給付は先送りになります。
例えば、失業認定日までの間に4日ほど「就職または就労」にあたる働き方をした日があったとします。
すると、本来ならば振り込まれる給付金は基本手当日額 × 28日分なのですが、4日分の基本手当日額が先送りになるので24日分の支給となります。
先送りされた4日分は、無くなったのではなく、支給期間が4日延長される形となり、支給総額としては変わりません。
少しややこしいのは「内職または手伝い」をした場合です。
この場合は、その金額によって給付が減額されるまたは支給されないという事も起こります。
その判定は、以下の計算式で決まります。(ここでの控除額はH28年8月1日変更後の控除額¥1282で表示します)
A:基本手当日額 + 収入(内職等による1日分の収入金額ー控除額)
B:前職での賃金日額 × 0.8
上記A,Bの金額に基づき、次のような判定となる。
- AがBより少ない、あるいはAとBが同じ金額の場合=全額支給
- AがBより多い場合=差額が減額されて支給
- 1日分のアルバイト収入がBより多い場合=支給なし
例えば、先に挙げた、月収の総支給額(控除前)が35万/月だった28歳看護師が、時給¥1,500のバイトを1日3時間したとします。
A ¥5,833+(¥4,500ー¥1,282)=¥9,051
B ¥11,667 × 0.8=¥9,334
よって、この場合は1番に当てはまり、基本手当を減額される事なく、バイト代も入ることになります。
元々の賃金額にもよりますが、時給¥2,000などの高額バイトをするときは、上記の計算式で、減額または支給なしの対象になる可能性があります。
なので、高額バイトの場合は4時間以上働いて、「就職または就労」の働き方にした方がお得だと言えます。
雇用保険基本手当で得するためのポイント
ここまで、雇用保険の基本手当について、知っておくべきことを説明してきました。
ここで、さらにお得に受給するために、知っておくといいポイントを付け加えます。
退職前6ヶ月の給与を上げる働き方をする
基本手当の基となる「基本手当日額」は、退職前6ヶ月の給与総額で決まります。そこには、夜勤手当、祝日手当なども含まれるので、退職前に少し頑張って給与額を上げておくと、基本手当支給額にも影響します。
再就職のお祝い金を受け取る
「雇用保険基本手当は、再就職してしまうと打ち切りになる」これも、私が勘違いしていた、私にとってはとても悔しい思い出なのですが、実は雇用保険には、失業者が再就職をした時に、一定の条件を満たしていれば「再就職のお祝い金」がもらえる制度があるのです。
その条件が以下になります。
・就職日前日までの失業の認定を受けており、基本手当の支給期間が3分の1以上残っていること。(例えば、支給予定期間90日だったときは30日以上残っている)
・離職前の事業所への再就職ではないこと。
・自己都合退職の給付制限期間を受けている場合は、1ヶ月以内の就職はハローワークまたは職業紹介事業者の紹介で就職したこと。(1ヶ月以降はこの限りではありません)
・1年以上の勤務が見込まれること。
・過去3年以内の就職について、再就職手当または常用就職支度手当などの手当を受けてないこと。
・ハローワークへの手続き前に採用が内定していたのではないこと。
また、必要になる方は少ないと思いますが、退職時に知っておくと良いポイントがもう1つあります。
基本手当の受給を左右する退職理由の「会社都合」とは、倒産や解雇だけだと思いがちですが、実は他にもあります。
それは、職場でパワハラ・セクハラがあったとき、行政機関から指摘があるほどの残業があったにも関わらず改善がなかったとき等です(詳しくは「雇用保険特定受給資格者」参照)。
なので、明らかにパワハラやセクハラを受けている場合、異常な残業が課せられていた場合、退職前に行動を起こすことで、退職時の理由が納得できるものになる可能性もあります。
まとめ
雇用保険の基本手当(失業手当)の大まかなポイントは、以下のようなことです。
・基本手当は、退職理由によって受給までに最長4ヶ月待つ場合がある。
・基本手当受給中にもバイトは可能である。
・基本手当受給中にバイトをする場合は、働き方に注意する必要がある。
・基本手当の受給手続き後、早期に次の職が決まった場合、就職祝い金がある。
また、退職後、このように制限の中で、働く時間や給与を自由に選ぶことができるのが、看護師の派遣や単発のお仕事です。
私も登録している、派遣や単発も扱う看護師のお仕事紹介エージェントには、2〜3時間/日の仕事や、20時間/週以内の仕事なども多くあります。
このようなお仕事を希望される場合は、こちらの記事がお勧めです。
ちなみに、私は2019年に、結婚と引っ越しのタイミングで雇用保険の基本手当受給の手続きを行いました。そこで、別のお得な方法が判明したので、こちらにご紹介しています。